吉永小百合と浜田光夫の“純愛”レポート
1962年9月23日号 週刊明星- 初のデート？は おシルコ屋で
- 小豆島でのヒソヒソ話
- ニキビのかわりにアゴヒゲが
- ドーランくさかったキスの味
浜田光夫と吉永小百合―――こう並べただけで、さわやかな初秋の風が流れてくるようだ。“純愛コンビ”を組んで満1年、若いふたりの友情の、ほほえましく健康な成長ぶりをのぞいてみよう。
ふたりはつい最近、『あすの花嫁』（野村孝監督）の撮影をすませたばかり。これは壺井栄の小説を映画化した、芸術祭参加の清新な青春ドラマだ。ふたりにとっては『太陽は狂ってる』『草を刈る娘』『キューポラのある街』『赤い蕾と白い花』につぐ６本目の純愛コンビ作品になる。
そこでまず日活撮影所で小百合ちゃんをつかまえて“純愛コンビ満１年”の感想を尋ねると、
「本格的に“純愛コンビ”を組んでからは６本目だけど浜田クンとはもう２０本くらいいっしょにやってるような胃がする・・・。でも（と指折り数えて）あ、１１本ね」
純愛コンビ１周年のことは新聞記者に教えられてはじめて気づき、浜田クンとアイスクリームで乾杯したそうだ。
―――“純愛コンビ”と呼ばれて気にならない？
「べつに気にならないわ。（明るい表情で）だって、“純愛”が、いまの年齢相応ですもの。オトナの役も面白いと思うけれど、あんまり背伸びした作品をやってファンのかたを失望させてはいけないでしょう。どうせ年は自然にとっちゃうんですもの、それまではやっぱり今のような作品をやっていたい・・・」
ふたりがはじめて顔を合わせたのは、ちょうど２年前、『ガラスの中の少女』で共演したとき。仕事の帰りにふたりでおシルコ屋へ行った時のことを今でも忘れない。
また、試写の日、妹の真智子ちゃんといっしょに浜田母子につれられて、家の近くでおスシをごちそうになったことも・・・
「あのころ、浜田クンは私の家の近くに住んでたのよ。え、おシルコ屋さんへはどちらが誘ったか、ですって？・・・私が誘ったような気もするけど、よくおぼえてないわ」
小百合ちゃんは無邪気に首をひねっていた。
はじめていっしょにおシルコ屋へ行ってから２年目の夏、この８月６日から１８日まで、ふたりは『あすの花嫁』の小豆島ロケへ出かけた。こんな遠出の仕事は『草を刈る娘』の津軽ロケいらいのことだ。
さぞかし、楽しい思い出がいっぱい・・・とたずねたら、小百合ちゃんはちょっと残念そうな顔をした。
「夏は昼が長いでしょう、仕事を終って宿へ帰ると、もう７時か８時。まいにちお洗濯に追われちゃって・・・。浜田クンなんかは、洗濯物は宿の女中さんに任せっぱなしだからいいけど・・・。ま、みんなで、盆踊りのおけいこをたのしんだぐらいね」
しかしスタッフの話によると、小百合ちゃんはけっこうひまをみつけて、街を歩き回り、愛用のEEカメラで美しく素朴な島の風物をとりまくっていたそうだ。
浜田クンは、『零戦黒雲一家』の種子島ロケで日焼けした肌にさらにハクをつけようと、島名産のオリーブ油をからだじゅうに塗りたくってゴキゲン。これを“日焼け止め”と勘違いした小百合ちゃんは、さっそくオリーブ油をどっさり買いこんだが、効用を聞いてびっくりし、使用のほうはやめにした。
日焼け防止には好都合だったが、仕事のおかげで水泳はもっぱら夜だけ。小百合ちゃんと浜田クンもスタッフにまじって真青に澄んだ海面にお得意の水しぶきをあげた。
最後の１８日の晩は、翌朝の帰京に備えて、ふたりは海水浴を自粛。ところがこの夜はとくに月が美しく、海いちめんに夜光虫がキラキラ光っていた。「いや、まったく神秘的なムードだったよ」とのスタッフの満足そうなタメイキを聞いたふたりは「ああ、最大の痛恨事！」とばかり、くやしがったのなんの。
小豆島ロケ中のふたりの“２番目の痛恨事”は、台本から乗馬のシーンをけずられたこと。青森ロケのときに騾馬を乗りまわしたキャリアを誇るご両人だけに、無念やるかたなかったらしい。
ある日、撮影の合間に、ふたりが木陰で仲良くヒソヒソ話に熱中していた。空は青く、木陰にわたる風は涼しく、青年と少女の親しげな語らいは、ロマンス・ムードがいっぱいといいたいところだったが、好奇心にかられ立ち聞きしたというスタッフ１人の報告によると、
「馬の鞍の値段って、いくらくらいするのかしら？」「東京へ帰ったら乗馬クラブに入りたいけど、入会金が高いんだろうね。オレたちのギャラじゃとてもムリかな」と、何のことはない、はじめから終りまで馬の話題ばかりだった。
さてこんどは、世田谷区の団地に浜田クンを訪問。いきなり、「小豆島で小百合ちゃんの水着姿、どうだった？」とあびせたら、
「ウーン、シミジミ見ないもの」
大いにテレて確答を避け、話を２ヶ月前のことにそらせた。
「種子島ロケから帰ってきてみたら、彼女から暑中見舞いがきてた。印刷のハガキに一筆そえて、“黒くなったでしょ、私も負けずに泳ぐわよ”なんてね」
彼もむろん「ガンバロウゼ」との返事を書いた。
―――最近、ふたりだけで会ったことはないの？
「いつだったか、彼女が仕事の帰りに遊びに寄って、本を借りて行ったよ」（壁いちめんを埋める本棚をにらんで）「そうそう、ぼくも高校生雑誌を小百合ちゃんに貸してもらったっけ」
大学生が高校生に受験雑誌を借りるあたり、いかにもユーモラスな交際ぶりだ。
「小百合ちゃんなら、どこの大学を受けたって入るだろうな。オレは、日大はぜったい受からないと思ってたけど・・・」
それだけに、大学生になれたよろこびはひとしおだ。祝いに貰ったぶんもいれて学帽を３つも集めてしまったし、机の上にはちゃんと時間割りがはってある。
「この科目、高橋（英樹）と同じなんダ。英語はもう手おくれだから、せめてフランス語を最初からちゃんとやろうと思ったんだけど、なかなか志どおりにいかないのさ」
仕事に追われて学校へ行くひまがないのだからムリもないが、大学生になった成果は十分だ。
話の内容もグッとオトナっぽくなったし、本棚には和洋の文学全集が並んでいる。「自分のやる映画の原作はぜんぶ読むことにしている」そうだ。
とにかく、この１年間を通じての浜田の“重大事件No.1”は、大学進学。いっぽうの小百合ちゃんは５月の欧州旅行といったところだろうか。
「前は、芝居がやりにくくてもおたがいに遠慮しちゃったけど最近は注文をつけ合えるようになった。小百合ちゃんもそうだけど、僕も順調にオトナになりつつある感じ。ムダメシは食ってないもン」
―――どうオトナになったの？
「背は前より大きくなったし、ニキビは減ったし…。ニキビのかわりに、ヒゲがヒョロヒョロはえてきやがった」
自慢そうにアゴをなぜてみせる浜田クンだ。
その浜田クンに１年前のシルコ屋の件をもちだすと「なーにツマラナイことよ」と鷹揚な返事。だが、どちらが勘定を払ったの？と聞くと、急に真剣な表情になった。
「オレが払ったのに、店を出たとたん、彼女が自分のぶんを渡すのさ。あんまり“いいよ”“いいよ”とも言えないから、けっきょくワリカンになっちゃった。まだあのころは、カック（カッコ）よく見せる必要もなかったしね」
初対面のときの小百合ちゃんの印象は「映画で見ていたとおりのオトナシい感じ」。シルコ屋で何をしゃべったかは、「おぼえちゃいない。もうトシだからなア……」とのことだ。
―――“純愛コンビ”と呼ばれてテレくさくない？
「そりゃテレくさいときもあるけど、テレくさがってたら仕事はできないよ。
それに、“純愛”というのは“純情”ということでしょう。純情っていわれるなんて、こんなありがたいことないスよ」（と、どうみても大学生らしくない童顔を一生けんめいオトナにみせて）「ま、２２、２３歳までは、“純愛コンビ”でおかしくないでしょうな。ファンもそれを望んでくれているし」
ふたりのファンは共通して、貧しいけれど明るく働いたり勉強したりというタイプ。「僕は夜学生だが、あなたの映画を見ると力づけられます」といった手紙をもらって感激することがしょっちゅうだ。
―――『赤い蕾と白い花』で、はじめてキスしたときは…？
「キスったって、オデコにしただけでしょ。あとで思わず口をふいちゃったけど、あれは小百合ちゃんのオデコがドーランくさかったせいさ。ほんとだよ」
このほほえましい純愛コンビの次回作は、１０月封切の『ひとりぼっちの二人だが』。つづいて正月作品『泥だらけの純情』（藤原審爾原作）、『虹子と啓介の交歓日記』（さきごろ先生の手で出版された男女高校生の愛情交歓日記）が待っている。
「なにしろ“最低ふた月に一度はぜひ！”というファンの投書がすごくてねえ・・・」（石神日活宣伝部長）
こうした期待につつまれて、仕事に私生活に、ふたりはいつまでも明るく健康な“友情交歓”をつづけてゆくにちがいない。
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漢字、カタカナ等 原文のままです。
こういう記事も宣伝の一環だったのでしょうか。
なんだか浜田光夫さんへの質問の方が意地悪な気がするのは私だけ…？（笑）
“（と、どうみても大学生らしくない童顔を一生けんめいオトナにみせて）”とか、ちょいちょいディスられてるし！（笑）
細かくて申し訳ないけど、
“この１年間を通じての浜田の“重大事件No.1”は、大学進学。いっぽうの小百合ちゃんは～”ってところ！！！
うっかり呼び捨てになってるところに記者の心の内が感じられる（笑）
そんなちょっと意地悪な質問にも上手く応えている浜田光夫さんにとても好感が持てますな。
※ 『交換日記』は和泉雅子さん、山内賢さんで映画化。