ガラスの中の少女
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配給:日活
公開:1960.11.9
監督:若杉光夫
脚本:青山民雄
共演:吉永小百合、信欣三、轟夕起子、大森義夫、小夜福子
浜田光夫さんの役名:広江陽一
♥ ストーリー
中学の同級生の靖代(小百合さん)と陽一は偶然四ツ谷駅で再会する。靖代は大学教授の娘で現在高校生。陽一は町工場で働く工員。靖代の父は厳格で娘の教育には厳しい。そして本当の父親ではない。ある時本能的に嫌悪感を抱いてしまう靖代。陽一の家庭も、貧しく、働かない父親にそれを庇う母親。仕事でも厳しい工場長に嫌味な先輩方。家出して先輩の部屋においてもらうが、居心地は良いものではない。お互い、二人で会っている時だけが幸せだった。しかしそんなささやかな幸せすらも許されない。靖代の父の北海道への転勤が決まる。二人でボートに乗る。そしていっしょに睡眠薬を飲む・・・
♥ 資料
1963年の雑誌にとても良い文章がございますので、引用させて頂きます。
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この工員役にこそ、のちの浜田の魅力のすべてがありました。ふとしたことで知り合った女学生との、夢のような交際。恋というには幼く、友情というには、とても整理しきれない、微妙な思春期の感情・・・。
当時、東京の新名物だった地下鉄四ツ谷駅の場面、大好きな少女とすれ違った、あの喜びとおののきの表情に、現在の浜田のほとんどすべてを見ることが出来ます。
ナイーブさ、ひたむきさ、そして、小柄な身体いっぱいに溢れる強烈なヴァイタリティが、思わずハッとするような“真の若さ”をうつし出したのです。
富士山麓、本栖湖へ逃れた二人の、悲しい心中。朝霧の中に、死のボートが漂っていた、あの忘れられないシーンは、今でも心の奥底から、深い慟哭を呼び起こさずにはいられません。と、いうのも、浜田が、その境遇や、心理や、感情を、主人公そのままに実にピッタリと演じていたからなのです。
劇団東童で鍛えた演技力と、先天的な映画へのカン、そして庶民的で親しめる個性が、ここには、早くも開花していたのでした。
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♥ 個人的に好きなシーン
吉永小百合さんと初共演する記念すべき作品です。
浜田光夫さん16歳、吉永小百合さん15歳。初々しさも残り観ていて微笑ましいです。
私の大好きな、貧しい工員役は、ここから始まっていたのですね!
最初の四ツ谷駅での再会のシーンから、やってくれてます。
すれ違って通り過ぎるんだけどやはり話しかける。
「沖中靖代さんだね。俺、広江陽一だよ。君に謝りたいことがあるんだ。変だもん、今考えてみればさ。そうだろ?どっかでちょっとでいいんだけどさ。」
「広江くん、不良になったの?」
「どうして?そんなものなってる暇ないよ。働いてるんだぜ?」
「じゃあいいわ。どこ行くの?」
「みつまめでどうだい。今日は金持ってるんだ。」
かわいい。フレッシュ。こんなかわいい子そりゃあ放っておけないよな。小百合さんもものすごくかわいいです。
そしてみつまめを食べながらお話をする二人。
陽一が謝りたかったことは、中学生の頃靖代に渡したラブレターのことだった。じゃんけんで負けて渡したのだという。でも靖代にと決めたのは自分だし、自覚はなかったが好きだったのだと思う、と陽一。
靖代の父にそのことで怒られていた陽一。「俺はもうダメなんだと思っちゃった。」「人間として?」「そうなんだよ。大学の先生にそう言われちゃったんだもんなぁ。」靖代の父は、"人間"は~、"人間"として~、等、人間というのが口癖らしい。
ラブレターごときでそんな大ごとになるの?!
靖代がみつまめに手を付けていないことに気付き、
「君、全然食べないの。」
「うん。よかったらどうぞ。」
「そうかい?悪いなあ。」
嬉しそう!かわいすぎ!一作目からこの破壊力!
帰り道、猛スピードで走る車から靖代を守り「気を付けろ!!!!!」
「広江くん、怖いのね。」と言う靖代に「遠慮なんかしてたら生きてはいかれないよ。」と陽一。社会で生きてる苦労が垣間見える。
「じゃあ、失敬。今日はどうもありがとう。」みつまめのお礼を言う靖代に「チェッ、ちっとも食べなかったくせに。」チェって言った。
「沖中くん、君に会おうと思ったらこの駅の入り口で待ち伏せしてればいいんだよ。ねっ!すっかりわかっちゃった!」
「待ち伏せする気なの?」
「悪いな、そんなことしちゃ。」
「ちっとも。正々堂々としてるじゃない。」
「だけど君のとこのお父さん、変人らしいからな。」
「よっぽど懲りたのね。」
「じゃあ!!」
「またね!」
「本当!?」
「どうして?」
「や、いいんだ!」
ここ良いよね。
仕事中に配達頼まれるたびに嬉しそうに駅で待ってる。仕事しなさいよ(笑)
お互い探してるくせにいざ会うと、忙しいけど少しなら時間あるよ、とか言っちゃうのが可愛らしいわ。
喫茶店でコーヒーを飲みながらお話。靖代の話に「やっぱり高校生だね。ちがうよ~。」と感心する陽一かわいい。私さっきからかわいいかわいい言い過ぎですねすみません
「聞いてもいい?」と靖代が聞くと「聞かれて困るようなことないもん。いいよ?」と陽一。あの手紙をどうして私に書いたのかと聞く靖代。「そう聞かれると困っちゃうな。」聞かれて困ることないって言ったのに!(笑)しかも一作目から駅までかけっこしてたわ。
しかし陽一くん本当に家庭環境が悲惨。働かないのに偉そうな父親。がみがみうるさい母親。幼い弟。休みとって出かけてたのに、どこほっつき歩いてたんだ休みなら家の仕事しろ、とか理不尽でしょう。
工場もブラック。休日出勤してもそれへの感謝はなく、クビだとか代わりはいくらでもいるとかしばらく残業代なしとか厳しい!いや、配達放り出してデートしてるのは陽一が悪いな。うん。お仕事だからね。
仕事後先輩たちと別れて帰り道、酔っ払いにぶつかり「なぁんだ、ガキじゃねえか。」と言われてもやり返さない陽一くん。ひとりでチンピラみたいに歩いてみる陽一くん。酔った女にしなだれかかられ足早に逃げる陽一くん。チラシで紙飛行機を作り飛ばす陽一くん。
ある日靖代が学校さぼって陽一の工場を訪ねる。二度と来ないでくれ!と怒り仕事に戻るが、先輩たちに冷やかされる。怒って殴るのかと思いきやただ叩くの可愛いんですけど!先輩叩いて工場飛び出して靖代の乗ったバスを追いかける。よく走るよね~。そのままデート。いや、仕事は!?(笑)
学校をさぼったことで陽一との関係が靖代の父にもバレて、より警備を強化する父。純潔を保ってお嫁に行かせることが親の務めなんだとか。なんだかなあ。そういう時代なんですかねえ。陽一くんとデートしても超純潔ですけど!
帰宅してご飯を食べていると親父が文句を言い始める。女といたことは知ってんだぞ、とか、たかが3千円4千円のはした金もらってくるだけででかい面するようになったな、とか。クズだ。自分は働きもしないで16の子供働かせておいてよく言うわ!陽一くんもう言っちゃっていいよ!
「親なら親らしくちゃんと働きに出たらどうだ!」ちゃぶ台をひっくり返し、お前に食わせる飯はねえ、出ていけ!と言うクズ親父。いや親父の稼ぎで飯食べてないし。「母ちゃんばかり苦労させやがって!それでも人間か!」人間ktkr!陽一くんだって苦労してるのに母ちゃんのことだけ労わる優しい息子。取っ組み合うクズ親父と陽一くん。
そこへお母さんが帰宅あわてて陽一を止める。陽一を!!!お母さんまで「親に向かってなんてことをするんだ、出ていけ!」・・・ひどい。
出ていく陽一。会社の先輩の部屋に厄介になることに。
先輩の所にはたびたび彼女が来るから気まずい。本当につらい。助けたい。私の部屋提供したい。自由に寝泊まりして良いし靖代ちゃんに会う作戦にも協力するけどお仕事だけはしっかり行きなさい、とお節介おばさんになりたい(笑)
そんな気持ちが芽生えるくらい陽一くんには逃げ道が全く無い。唯一幸せな時が過ごせる靖代との時間も、お父さんに阻止されてるし。土曜1時に駅の入り口で待っています、と書いたお手紙も靖代の手に渡らずお母さんに燃やされてしまうし。
靖代の父の北海道転勤が決まる。引っ越し作業中靖代は抜け出し陽一の元へ。
お仕事中の陽一を窓の外から呼ぶ。こっそり出て行く陽一。歩く靖代について行く。「どこ行くの?」「どこか遠くへ。静かなところがいいわ。」
電車に乗り着いた先は湖。
冒頭の靖代が湖に浮かぶシーンにつながることが解るので悲しい。状況は極めて深刻なのに、二人の空間だけはいつもと変わらない。
「広江くん、こっち向いて。」
「死ぬこと考えてるのね。私だって死ねるわよ。」
「沖中くんはなにも死ぬことないじゃないか。」
「生きてる必要もないからよ。」
「何のために生きてるかわからなくなったの?」
(頷く靖代)
「だけど君なんか高校出て大学行ってうんと勉強して、それからどこかお嫁に行けば・・・」
「で、どうなるの?」
「どうなるって?」
「死ぬんでしょ。」
「そりゃあ、人間だもの。」
「そうでしょ。」
「だけど、君には何も目的が――」
「あるのよ。お父さんにね、靖代は死ぬまで純潔でしたって言いたいのよ。」
「わかんないなぁ、そんなこと。」
「理由はあるのよ。」
「死ぬのに理由なんてどうでもいいけどさ、結局、自分に責任を持つってことなんだろ。」
「このあいだの晩、うちでちょっと妙なことがあったのよ。その晩眠れなくて家にあったこれ、使ったのよ。」
ハンドバックから睡眠薬を取り出す。
「効くの?これ」
「すごーく効く!」
「ふぅん。」
「死ぬのってこんな気持ちなのかな。」
「そうね。」
「もう言うことなくなっちゃったな。」
「広江くん、私が好きだった?」
「そうさ!前にも言ったろ?君は?」
「好きよ。」
「なら良いじゃないか。結婚して幸福にする勇気はなかったけど。」
「そうね、嫌らしい世の中に負けちゃつまらないわね。」
「そうさ!」
「薬を飲む?」
「うん、いつでも飲むよ!」
「いくつあげようかしら?」
「いい加減でいいさ、薬なんて。」
「余計に飲んどけばね。」
「別々に死んで、一緒に死ぬの、心中っていうのかしら。」
「違うさ!」
「そうね、心中っていうのは違うわね!勘違いしちゃった!はははは!」
「てんで違うさ!はははははははは!」
死に向かっているとは思えないほどの明るさが切ないです。。靖代は湖面に浮かぶけど、陽一は湖の奥深くに沈んでしまったのかな・・・。お兄ちゃんがいなくなって、幼い弟は大丈夫かな・・・。はぁ、心配。感情移入しすぎてしんどい(笑)
私が名画座のスクリーンでこの作品を初めて観た時、初々しさも含めまるでガラス細工のような繊細で美しい作品だと感じました。いつまでも宝箱にしまっておきたくなるような。
悲しいお話だけれど、浜田光夫さんと吉永小百合さんの屈託のない純真さ、明るさが、映画をじめじめさせ過ぎずに煌めきと儚さを良いバランスで保って下さっていると私は思う。
身分差のある若者の純愛。名作「泥だらけの純情」に繋がるのですね。
真っ直ぐで少しの澱みもない、まっさらな印象。若杉光夫監督が声をかけたお気持ちわかりますねえ。小学生のとき若杉光夫監督の「石合戦」に主演した際に浜田光曠少年を気に入って、次の作品も浜田くんでっていう話になっていたんだけど学校側から待ったがかかって出られなかったんですよね。それでも高校1年の時にまた若杉監督の方からオーディションを受けてみないかとお誘いがあって、迷った末、芸能活動に厳しい学校から他の学校へ転入してオーディションを受けることを選ぶわけですよ。そしてここで同じオーディションで選ばれた吉永小百合さんとコンビを組み、以降44作品の共演。なんだか運命的なものを感じますね~。もしも、監督が浜田さんに声をかけなかったら・・・浜田さんが他の選択をしていたら・・・と考えると怖い!いつも運命なんて鼻で笑ってる私ですら、運命ってあるのかも!と思ってしまう(*^▽^*)アハハハハハ!
小百合さんが湖に浮かぶシーンの撮影中に気を失ってしまっていて、みんなで焚火のそばで体をさすって温めてあげていて浜田光夫さんも心配して加わろうとしたら、お前はいいからと止められたエピソードおもしろいですよね(笑)トークショーで聞いて笑ってしまいました(*´ω`*)
これもトークショーでのお話。「ガラスの中の少女」のスチール写真に、お二人が仰向けで横たわる、それはそれは麗しいカットがあるのですが(持っていないため写真で説明出来ず申し訳ありません。)、その写真が出て来て浜田光夫さんが「この時すごく眩しかったんですよ」と教えて下さいました。照明やレフ版が眩しくてシャッターが切られる直前まで目を閉じていたそう。眩しそうだという印象は受けない!凄い!俳優さんって凄い!愁いを帯びた素敵な写真になってる!凄い!とひどく感動しました。
思うところありすぎて、まとまりのない文章を長々と申し訳ございません。吉永小百合さんのDVDマガジンでDVD化されておりますので、是非ご覧になってみて下さいね。