浜田光夫 研究室

浜田光夫さんファンによる

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管理人
岡 ななみ
   

 非行少女

   
    配給:日活

    公開:1963.3.17

    監督:浦山桐郎

    脚本:石堂淑朗、浦山桐郎

    原作:森山啓「三郎と若枝」

    共演:和泉雅子、小池朝雄、杉山俊夫、香月美奈子、小夜福子、浜村純

    浜田光夫さんの役名:沢田三郎

    ♥ ストーリー
    舞台は金沢。貧しさや家庭環境から荒んだ生活を送る若枝(和泉雅子さん)。東京で失業し地元に帰ってきた幼馴染の三郎(浜田光夫さん)と再会する。若枝を励まし、助け、愛す三郎。ある日火事をきっかけに若枝は保護施設に入れられる。そして自立をするため大阪行きを決めた若枝だったが…


    ♥ 浦山桐郎監督による「非行少女」における浜田光夫評
     (1963年 近代映画浜田光夫写真全集より)

    昨年の丁度いま頃、第一作「キューポラのある街」が出来上がって、私はさまざまな思いでそれを見ました。作品そのものについては、つくった私自身いろいろ不満な点もあり、上映中しばしば苦笑したり、首をすくめたりしたのですが、ただひとつ嬉しかったのは、主演の吉永小百合君と浜田光夫君が実にのびのびやってくれたことでした。
    吉永君については、後日いくつかの演技賞をとったほどで一生懸命の演技でしたが、私は別の意味で浜田君の好演を忘れることができません。
    正直言って、“実にいい芝居をしやがったなァ”とつくづく感じたところも二、三箇所ありました。
    主役の吉永君をきれいに引き立たせて、しかもそれで自分の演技というものに一本ちゃんと筋金を通している確実さ―――とでも言うのでしょうか。
    私は日活に入って八年になり、「キューポラのある街」ではじめて浜田君を演出したわけですが、こんな“根性”で固まった俳優ははじめてでした。
    私はもともと根性のある人が好きです。だから、第二作「非行少女」でも、いつのまにか真っ先に浜田君のことを考えていたほどでした。
    「非行少女」での彼の役“三郎”は、ある意味で和泉雅子君の“若枝”より難しい立場にあると言えます。三郎がもっともっと苦しみ、そしてそのどん底から立ち上がってこそ、若枝を正しい方向へ導ける人になれる―――私は、脚本を書く上でその点に最も苦しみました。
    幸い、二カ月もの中断期間がありましたので、とくにこの点を徹底的に書き改めました。彼は、出来上がったばかりの新しい脚本を食い入るような眼で読み始めました。その鋭い眼の輝きで、私は“きっとまた彼はやってのけるだろう”といううれしい予感を与えられました。
    それを裏付けるようなこんなことがありました。汚い話で恐縮ですが、酒に酔った浜田君がゲーゲー、ドブロクを吐くシーンがあります。私はこのカットを、彼の顔の大きなアップで撮りまくりました。あとでラッシュで見ると、実に壮観(?)というか、見事な吐きっぷりです。しかし、不思議と、それは「スゴい」という表現がぴったりで、ちっとも汚く感じないのです。
    映画というものの本質の一つに“観客に嫌悪の感情を与えてはならない”というタブーがあります。彼はそれを知っていたのか、または恵まれた演技力が、こんなシーンを、それだけ昇華させたのか………?
    とにかく、これからも私は、その彼のかくれた無限の底力をもっともっと引っぱり出してやりたい気持ちでいっぱいです。


    ♥ 管理人的好きなシーン
    ※ あくまでも浜田光夫さんのシーンのみです。

    職安に通う三郎(浜田光夫さん)。失業保険金を受給している。
    職員との会話から、東京へ出てテレビを作る工場で働いていたが、大手におされ潰れてしまったしまったことが窺い知れる。兄貴の工場を勧められるが、考えてみます、と濁す三郎。兄貴と何やらわだかまりがありそうです。

    帰り道、映画館から出てくる女の子がチンピラ学生に絡まれている。「待てよ!」と止めに入る三郎。「あんまり女の子をいじめるないや。」
    その女の子は幼馴染の年下の女の子、若枝(和泉雅子さん)だった。チンピラが集団になって追って来るが逃げ切り、二人で鉄橋でお話をする。
    「中学校行ってないんか?今の母ちゃんそんなに嫌いなんか?」と心配している三郎。
    『スカートも持ってないもん…』と若枝。
    「スカート買うてやる!」とデパートで若枝にスカートを買ってあげる。自分も失業中なのに…優しい。

    兼六園。スカートを履いた若枝に言葉が出ない三郎。似合っていないのかと不安になる若枝。「いや、三つくらい大人びて見えて…。なかなかいいよ~」とニコニコな三郎。若枝が嬉しそうにくるくる回る。


    河北潟駅から、かつて米軍の演習地だった内灘の海岸に三郎を案内する若枝。その弾薬庫の廃墟の砂の下へ自分の宝物をしまっている。10年前、米軍演習地問題で若枝の一家と三郎の一家は対立してしまった。(これ実際にあった問題みたいです。)

    ☆+°.

    三郎宅。選挙に立候補する兄貴(小池朝雄さん)の後援者たちが三郎に話しかけるが軽く受け流し相手にしない。そんな三郎が気に食わない兄貴。
    ご飯をかき込んで海へ。
    海で泳いでいる若枝の元へ「おーーーーーい!」。『泳ごう!』と言う若枝に「寒いよ、もう。」と困り顔だが、結局服を脱ぎ体操して三郎も海へ。
    この時の海水14度で本当に本当に寒かったそうです。医師の診察を受けてマッサージをしてから海に入り、撮影が終わるとすぐに再び診察を受け、近所のお風呂をいただき温まったそう。それでも浜田光夫さんは高熱を出してしまったとの事。(当時の近代映画、明星より。)かわいそうだけどかわいいエピソード♡

    例の弾薬庫で、焚火にあたる。
    パンツを干してるんだけど、ということはつまり三郎さんノーパンでズボン履いているの??キャー♡(笑)
    教科書を取り出す。勉強を教えてくれている。今日は国語の日。
    「勉強がちょっとずつでもわかって来ると、学校がおもしろいやろ。」
    『そやけどなぁ…』浮かない顔の若枝。
    「若枝ちゃん、学校に収める金はどうしてる?」
    俯く若枝にポケットからお札を取り出し渡す。PTA会費やノート代に充てなさいと。
    「ま、職が見つかったらもっとええ水着買うてやるからな!さ、勉強しよう!俺一回通して読んでみるからな!」
    教科書を手に詩を読み始める。三好達治さんの「汝の薪をはこべ」の冬の一節。
    「いっぺん読んでみるか!」と若枝に教科書を差し出すが、泣いている。

    どうしたのか問うと『三郎さんみたいな優しい人、わて、初めてなんやもん。』。三郎は「俺、本当に優しいか?」と優しく問いかけ、若枝の涙を吸い取り、優しくキス。優しい、とにかく優しい。優しいか?じゃないよ、優しいよ!!!
    若枝の、こんなに優しくしてくれる人がいるなんて…という気持ちと、いつも駄目な扱いされている中で優しいなんて言って自分を頼ってくれる子がいるなんて…という三郎さんの気持ち。

    ☆+°.

    若枝はチンピラ竜二(杉山俊夫さん)に追われ、バイトしていたバーで腹いせにかっぱらったハイヒールが原因でお金を請求され更に乱暴されそうになる。もみ合った拍子に三郎に貰ったお金を竜二に取られてしまう。

    祭りの日、若枝は思い余り中学に忍び込み職員室からお金を盗るが、小間使いに見つかりまた身に危険が迫る。なんとか逃げ出す。継母と叔母にスカートのことを問いただされる。
    三郎は祭りの人混みのなかで若枝を探し出す。「どうしたんや。あれから弾薬庫へ来んかったやないか。学校へも行っとらんと言うし。」
    『わて、勉強しても意味ないもん。』
    「僕がやった金、学校に出さんと使こうてしもたんやろ。心配せんでもええ。使うたんならいいんだよ。またあげる。そやから…」
    『わて、学校辞めるんや。もう行かれんのや。』
    「若枝、何かあったんか?」
    『言えん!』
    「俺に隠し事なんかするないや。』
    走って人混みに消える若枝。三郎は同級生につかまり飲みに連れて行かれる。

    帰宅すると、若枝の父と兄貴たちが揉めている。兄貴は三郎が若枝に買ってやったスカートのことで文句をつける。そこに小間使いが若枝がお金を盗んだという話をし、あることないこと騒ぎ立てる。三郎にも若枝がわからなくなる。若枝の父を追い帰す。三郎は二階の自室へそれを追いかけて来た兄貴に殴られ投げられ罵声を浴びせられる。
    「なんじゃい兄貴は!いつも威張ってばっかりいやがって!傲慢だよ!あんたは10年前の基地反対の時も貧乏人の仲間を裏切ったやないか!若枝のうちだってあれからどん底になったんや!」と歯向かう三郎。

    こういう時のキッとした表情、良いよね。
    兄貴『青二才が何を言うか!俺の言うことが聞けないなら出て行け!居れば居るで邪魔になるばっかりやさかい。あほの若枝とどこへでも行くといいわ!』と言い残して立ち去る。
    お母さんが三郎を心配するが、三郎は布団をかぶり閉じこもる。

    ☆+°.

    若枝が例の海岸の廃墟に行くと、箱の上に葉っぱが。開けると、あのスカートと、三郎からの置手紙。「君のことがよくわからなくなった。君も無理して僕とつきあうこともないだろう。短いつきあいだったが これでさよならだ」……
    三郎は兄貴の選挙の関係で家に来た遠縁の叔母さん(北林谷栄さん)とその娘(佐藤オリエさん)の養鶏場に住み込みで働くことになっていた。
    ここからの表情の死に具合が素晴らしい。いつもキラキラが基本装備の浜田光夫さんから、そのキラキラが消え去っている!ものすごくだるそうにで卵をチェックして、生卵食べようと穴開けたら娘が入ってきて焦って卵握りつぶすところも秀逸。
    豚の本を買って来た、と三郎に渡す娘。養豚の説明をする娘。三郎さんの好きなレコードも買って来たからあとで聞きましょう!と娘。

    夜。レコードをかける。娘『三郎さんっていつもおもしろうないって顔してるな。何を考えてるの?ねえ、何したらええかそれがわからんというところやろ。』
    「わからん。僕はこの際、豚を相手して豚の奴に聞いてみようと思う。」
    『あほらし!』
    「ほんまや。豚が一番ええ。豚と寝るんじゃ。」
    『あははは!おかしな人やなぁ!』爆笑する娘。本当におかしくなっちゃったね、三郎さん(笑)

    外で物音がする。三郎が様子を見に行くと若枝が。叔母の連れ込み宿へ引き取られたがその不潔さに耐え兼ね逃げて来たのだった。
    「置き手紙読んだろ?学校行ってないのか?」
    『金沢のおばちゃんのところにいる。芸者にするっていうから怖くて逃げて来たんや。どうしても会いたかった…』
    「君に負けたんだよ。俺は君から逃げた。兄貴の言いなりになって鶏の相手して…』
    『嫌いになったの?』
    「どっちでもええわい。」
    『あの娘さん誰?』
    「この家の娘や。俺は使用人や。」
    『嘘や!あの人好きなんやろ。』
    「だら言うな。お前こそ嘘言うやないけ。泥棒したり…。あのハイヒールも盗んだんやろ。なあ、若枝、俺たちのことはなかったことにしよう。お前の言うことがわからんのや。」
    『悪かったんや…』
    「お前はまだ中学生や。今までのこと忘れてさ、やり直せや。うちへ帰ろう。送ってやる。学校の先生に相談してみよう。」取り付く島もないな……
    『帰るわ。ごめん、三郎さん』と送ると言うのも断り帰っていく若枝。


    また別の日、三郎さんは部屋で、豚の本を読みながら眠ります。

    若枝は鶏小屋に。そして失火で鶏小屋を全焼させてしまう。このシーン本当に鶏のいる小屋に火をつけているのか、火のついたニワトリさんが走っていて観ていられなかった…(泣)

    内々に決められていた娘と三郎の縁談は破棄(これは良かったね)、若枝は金沢児童相談所へ、そして保護機関の北陸学園へ入れられる。

    兄貴は町会議員に当選する。
    三郎は兄嫁のへそくり3万円を持ち、家出。


    ジャズ喫茶でボーイとして働く三郎。竜二に見つかり『一杯やろう』と声をかけられる。バー・夢路へ。カウンターで1人飲んでいた三郎に絡む竜二とバーの女。三郎に頭わしゃわしゃしててうらやましい(笑)
    三郎は怒り「やめてくれ!帰る!」と帰ろうとするが、竜二に止められる。『お前俺に恥かかす気か?お前ズベ公に手出すならやりそうでやらんような中途半端なことしいな!ああ!?ズベ公はおまんらの手にはおえんわい。わかったか、あほんだら!』
    「ああ、わかったよ。どうせ俺は駄目な男や。そやけんどな、おめえらなんでえ!なんとかかんとか言って結局ズベ公食いものにしとるやないけ!おめえらダニやわい!」『なにを~!?』と掴みかかる竜二。「お前らうしろに暴力がひかえてるからでかい顔ができるんじゃい!」『だらくそぉ!』殴り合いのけんかに。
    追い詰められ往復ビンタされてるとき血のり噛んでるのわかる。
    劣勢かと思われたところでキッとした目になり竜二の股間蹴り上げる三郎。 竜二はそれで伸びるが、取り巻きの男にまた殴られる。全然強くないのが良いよね。
    すごい勢いの迫力満点のシーン。夜中までかかったそう。浦山監督のことだから何回もやり直したんじゃないか…。
    こういうことだよね。貧しくて弱い立場だけれど、強いものに屈しない正義感がある。そういう浜田光夫さんだから我々庶民の代表という位置に置かれがちなんだよね。
    映画の話に戻ります。
    怪我した体をひきずり、自宅へ帰る。お母さんが心配して駆け寄る。ちょうどあんちゃんがいない。しかし兄嫁の視線が怖い…

    ☆+°.

    三郎が釣りをしていると、北陸学園の女子集団がマラソンをしている。若枝の地元だから、若枝を知っている悪ガキたちが悪質な意地悪を仕掛け、小間使いともみ合いになるが、若枝は負けない。学園の女子たちも一緒になり対抗する。そんな様子を隠れてみている三郎。

    ほっかむり可愛すぎか!!!

    若枝はお正月も家には帰らず、学園で過ごす。
    洗面所の窓の外に、三郎が。雪がちらついているのが綺麗。

    窓を開ける。
    「一昨日のマラソン、陰で見とったんや。許してくれや。村の奴らにあんな目におうて…。どうしても君の顔見とうなったんや。」
    『三郎さん、あれからどこにおったんや?』
    「金沢で1人で働いとったけど…」
    『わてのためにめちゃめちゃになったがやろ。』
    「俺がいい加減だったからや。君にちべてえこと言うて、君は僕を憎んだろ?」
    『わて、泥棒したり、いろんなことしたもん。嫌われたかて当たり前や。』
    「君だけが悪いんじゃねえ。なあ若枝ちゃん、よう聞いてくれや。俺、もう一回何もかもやり直すことにしたがや。走っとる気味の姿を見てそう決めたがや。村の人に何と言われようと気にせんと、家から金沢の工場かなんか通うことにしたがや。」
    『うちの人はどう言うとるんや?』
    「今夜あんちゃん東京から帰ってくるさかい、頼み込んでみるわ。」
    『三郎さん、和手のこと忘れて、良いようにして。ね?』
    「何を言うんや。若枝ちゃん、俺はな、今はみんなに頭を下げて…。とにかく君が退園するの待っとるわ。出てきたら、その時二人で考えようや。な。」
    『…』
    「俺のこと、嫌いか?」
    『(首を横に振る)』
    手を握る。窓越しで部屋の外と中っていうのが良いよね。
    「元気出すがやぞ。」
    キスしていたら『若枝ちゃん!』と園の女の子の声が。
    さよなら、と帰って行く三郎。

    兄貴が東京から帰って来る。母『太郎、三郎が戻って来とるんやが。ようやっとまじめに働く気になったらしいで、あんまりきついこと言わんとな。頼むわ。』
    兄『落ちるとこまで落ちて気が済んだか。しゃあないやっちゃ。おい、さぶ!俺は東京へ行ったり金沢で打ち合わせがあったりして忙しいんじゃ。お前もうちょっとしっかりせんとあかんぞ。』
    「ああ。どうもすまんことでした。」

    頭を下げる。嫌だよね。頑張ったね、三郎。頭頂部がふわっふわですね。


    三郎は工場で働き始める。やっぱり工員姿の浜やんイイネ!!同級生のなかにいた野呂圭介さんが一緒に働いてる!
    百貨店で若枝にとブローチを選ぶ三郎さん。ようやくキラキラな笑顔が戻って嬉しいよぉ。

    一方、若枝は大阪で縫子として働くことを決める。それも三郎には告げずに……。
    出発の日、学園を出て父に送られ金沢駅へ。
    その帰り道の父を見つけた三郎。嬉しそうに呼び止める。「おっさん!ウイスキー買って来たぞ!お祝いや!」『お前早いな…』「早退きしたがや!若枝はうち帰ってる?」
    この父さんが隠せるわけないよね。事情を聴きだしたらしい三郎さんは急いで金沢駅へ。改札前で若枝を掴まえる。
    「待てよ!君はなんで何も言わず逃げるんがいや。」
    『ごめん』
    「俺のこと好きなんか嫌いなんかどっちなんや!」
    『好きや!せやけどあかんのや!』
    喫茶店へ。
    なぜ洋裁の縫子になることを相談してくれなかったのかと問いかける三郎。
    『反対されると思って…』
    「当り前や!金沢でもできるやろ。俺のこと疑ってるのか?」
    『わてが三郎さん疑うなんて!わてには三郎さんに待っとってもらうほどの値打ちがないがや。この前三郎さんが来てくれた時、あんまり嬉しかったさけ夢中になっとったんやけどやっぱり自分のこと考えたら自信ないようになったんや。』
    「若枝ちゃん、君は前の自分のことを気にしすぎとるんよ。そんなこと思っとったら果てしないぞ。君が泥棒して教護院に入ったのは君だけのせいじゃない。僕も悪かったし、君の周りも悪かったんや。ほんであんな火事まで起こしてしまったんや…。結局僕ら二人ともそのために傷ついとるんや。そやけんど、そんなこと気にしすぎて僕から逃げるんやったら思い直してくれよ。偉そうなこと言える男やねぇけんど、君の過去をとやかく言う気持ちは全然ないがやて。」

    こんな一生懸命に親身になって優しく説得されたら揺らぐよ……

    コーヒーが運ばれてくる。角砂糖2つ入れる。
    「君は、父ちゃんが僕の重荷になると気にしているのか?」
    頷く若枝。
    「そうやろうと思っとった。君は考えすぎとるよ。父ちゃんがあんなことになっても君は君や。三人でいっぺんゆっくり相談して、これからのこと決めたらええがいや。父ちゃんかて、1人になって可哀想や。とにかく、君1人で決めてしまうのは良うないよ。そやろ?」
    大阪行きの汽車のアナウンスが響く。
    「どっちにしても、今日は行くのやめて、ゆっくり話しようさ、家へ戻って。」
    『大阪で洋裁の人が待っとるがいや。』
    「いまのうち、病気とか理由付けて電報打てばいいよ。この話は僕たちにとって一番大事なことなんやから。この際仕様がないやないか。…わかるやろ?若枝ちゃん。僕は、何も無茶なことは言うとらんやろ?」
    若枝のコーヒーに角砂糖を入れ「飲めよ、ちべとうなる。」
    コーヒーを飲もうとするも、激しく嗚咽をもらし泣き出す若枝。
    『わて、わからんくなった。どうしたらいいがか。三郎さんにすまん思うたら。わて、勝手やったかもわからん。そやけんど、一生懸命考えて、1人で働こうと決めてしもうてたがや。三郎さんの言うとおりにしたら三郎さんに迷惑ばっかりかけとるんや。父ちゃんやって、今はしょぼんとしておとなしくしてるけどまた怠けだすに決まってるんや。』
    「そんなこと平気や!」
    『わて、三郎さん好きや!そやけど、それだけで、他に何もないがやもん。(大泣き)』
    「若枝ちゃん、俺だって何もないよ。ないもの同士だよ。」
    『わて、1人だけで仕事やってみて、自分でぐらぐらせんようになるまで、誰も好きになったらいかんと決めたんや。せっかく決めたのに、三郎さんに会ったら会ったらわからんようになってしもうたがや。』

    若枝の言葉に、泣きじゃくる姿に、何か思いを決めた様子の三郎。ミスコンの受賞インタビューの呑気なテレビ、周囲の人々の喧騒と、迫る汽車の時間。ぼやける視界と三郎の表情が交互に映し出される。
    ここの表情秀逸。


    三郎は「もう泣くな!」と若枝の手を掴み、改札へと走る。動き出した列車に一緒に飛び乗る。
    ドアを閉め、ブローチを若枝の胸元につけてあげる。

    『どうしたんや?』
    「次の駅まで送るわ。いいよ、大阪行けよ。君が学園で考えてたこと、わかる気がするんだ。僕も一人になって、もっともっと自分を掘り下げて行ってみるわ。そして、3年経って、君がまだ僕を忘れず僕も君を愛していたら、その時に会おう。(涙)」

    「もし二人別々の家庭を持つようになっても街で顔を合わせた時に恥ずかしくないような二人になっていよう。若枝ちゃん、愛してる。好きだよ。」
    『わても好きや!好きや!』
    またキッス。
    「戦争がはじまりそうになったら飛んで行くからな。頑張れよ!」

    次の駅で降りる三郎。走り出す列車。

    ホームに残された三郎。タバコに火をつける。列車はどんどん進んで行く。
    「終」



    撮影期間は、1962年11月上旬から中旬までの金沢ロケ、75日の中断期間を経て、1963年2月5日から月末まで撮影所でのセット撮影(途中、内灘海岸に似ている鹿島灘海岸での追撮あり。)。
    中断期間中に脚本の書き換えが行われ、浜田光夫さんの出番がグッと増える。(近代映画より)

    ラストの金沢駅でのシーン、圧巻ですね。
    何が何でも金沢に引き留めるだとか、自分も大阪について行くだとか、どちらもせずに、あくまでも若枝の決心を受け止めた三郎。その決断が1番得策だし物語的にも素敵だと思った。せつないけれど。浜田光夫さんは強引に自分の意見押し付けないの。そっと支えて応援してくれるの。そこがいいの!

    このシーンはいつでも感動を伴って思い出すことができる、と浜田光夫さんがご著書でおっしゃっていたと記憶しているんだけど、それは映画としてのシーンなのだろうか。演じていたときの三郎さん視点のものなのだろうか。気になる。

    浦山監督のお言葉にもありますが、浜田光夫さんの担う役の重要度よ。一見、主人公・若枝を支えてあげる優しいお兄さんのようですが、彼自身が苦悩を抱え厳しい状況の中で、若枝と出会い若枝に頼りにされることで助けられ、若枝の強さに感化され、若枝のために前に進む。お互いにかけがえのない存在なのですね。
    ダメだ、ダメだと言われ育ったのでしょう。そして東京で1人で働いていたのに職を失い田舎へ帰る。また自信を失っていたところで若枝と出会う。
    勉強を教えてあげて、若枝が『こんな優しい人初めてなんやもん。』と泣き出すシーン。「本当に優しいか?」という台詞。若枝にとっても、自分に優しくしてくれる人がいるなんて…と衝撃だったのでしょう。そしてまた三郎にとっても。自分を認めてくれる人。愛おしむように、涙を吸いとる。ああ、美しい。
    ただ、個人的な感想ですが、親の色恋や男のいやらしい部分で辛い思いをいてきている若枝だから、三郎さんにはプラトニックに愛してほしかった。キスなんてしないで!!
    あと21歳という大人ということを演出したいのか、当時の田舎の青年には必要不可欠だったのか?煙草を吸いすぎ。三郎さんに煙草は必要ない気がする。
    その二点が無いと私のナンバー1映画だったかもしれない。

    これも不満ではないんだけど、とっても気になること。
    浦山監督が絶賛している、浜田光夫さんの手記でも大変だったけどやり切ったと書かれているシーン。どぶろくを飲んで酔っ払って帰った三郎さんが思いっきりゲーゲー吐くというシーン。これまさかのカットなのでしょうか??
    若枝が北陸学園の前に連れて行かれた鑑別所みたいなところで、若枝のお父さんに『一杯飲ませろ』と言われ飲みに行き、家に戻ってきたシーンで酔っ払って土間に倒れるところまでで次のシーンにいっちゃうんだけど、きっとこの続きのことですよね??
    私が観たCS放送ではカットされていたのか、劇場公開前に待ったがかかったのか……気になるところです。
    浜田光夫さんの手記によると、
    ”昨夜、浦山先生にこのシーンは、上からまともに君のアップで撮るからダイナミックに吐いてくれと宿題を出されて大弱り。しかし、とにかくやった。大の字に寝転がったボクの口からカニみたいに白いアブクがグッ、グッとあふれ出てくる。このアブクの原料はタマゴと、トロロ芋と、メリケン粉を混ぜ合わせた小道具係さん苦心の作。(後日の参考の為、キタナいのをガマンして書いておく次第)"
    だそう。面白い。とっても気になる。うーん。


    「非行少女」といえばね、和泉雅子さんが浦山監督の厳しい演技指導に応え、見事に演じきったことは有名だけれども、浜田光夫さんも物凄く秀逸だと思う。信頼の浜田光夫だったんだろうけども。浜田光夫が演技派なのはわかってるから、みたいな扱い方されてるよね、当時の雑誌で。

    先述しましたけれども、金沢駅の喫茶店で最初は大阪へは行かず一緒になんとか頑張ろうよ、と親身になって説得していた三郎が、若枝の決意を聞き、泣きじゃくる若枝の前で表情だけで変わるところ。
    これは絶対何か賞を受賞すべき。

    その説得中の台詞でいつも泣かされるところがあるんだ!
    『わて、三郎さん好きや!そやけど、それだけで、他に何もないがや!」
    「若枝ちゃん、俺だって何もないよ!ないもの同士だよ!」
    です。ただ、そんなことないよって言うよりも、すぐそばまで来て寄り添ってくれるような。説得力と優しさ。
    その前の、「若枝ちゃん、君は前の自分のことを気にしすぎとるんよ。そんなこと思っとったら果てしないぞ。君が泥棒して教護院に入ったのは君だけのせいじゃない。僕も悪かったし、君の周りも悪かったんや。ほんであんな火事まで起こしてしまったんや…。結局僕ら二人ともそのために傷ついとるんや。そやけんど、そんなこと気にしすぎて僕から逃げるんやったら思い直してくれよ。偉そうなこと言える男やねぇけんど、君の過去をとやかく言う気持ちは全然ないがやて。」も沁みるよね。
    僕も悪かったし、君の周りも悪かったんや。
    これね。ただ、そんなこと気にしないで、と言うのではなく。これも近くで寄り添ってくれる言葉。
    やはり親身になってくれる優しい役の浜田光夫さんは好きだ。

    ラストの列車内で三郎さんの気持を伝える台詞。
    僕も一人になって、もっともっと自分を掘り下げて行ってみるわ。
    これも凄いと思う。こんなこと言える??大好きな女の子と別れなくてはいけない状況で、こんなこと言える??
    絶対3年後会おうね、じゃなくて、もし忘れていなくて愛していたら会おう、なんて。出来た男ですよ。もしかして大阪で良い人とめぐり逢うかもしれない若い若枝を縛り付けない優しさだと受け取ったのですが、どうでしょう。

    そんな細かい台詞に注目したら夜が明けてしまうほど語りつくせる。

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