浜田光夫 研究室

浜田光夫さんファンによる

非公式ファンサイトです。

管理人
岡 ななみ
   

 イキでお茶目で純情で……

1963年 近代映画 青い山脈 特別号より
   


     ☆ 落語修行を始めました ☆

    「あいつ、ひどい奴だぜ」
    高橋英樹クンが、相棒の山内賢クンに話しかけます。
    「どうしてだい?」と、賢クン。
    「だってさ」と、いいかけて、“カッコいい若者”高橋クンが、思わずミズッパナをすすりあげました。
    スタジオの昼下がり――。
    芝生の上に寝そべって、日向ぼっこを楽しむ二人の若者の上を、真綿をちぎったような雲が、悠々と流れていきます。
    「オレ、ここんところ、ずっと風邪をひきっぱなしだろ。元はといえば、あいつからウツされたんだぜ…」
    「エッ、ホントかい?」
    ノンビリと聞き手にまわっていた賢クンが、ムックリと頭をもたげました。
    「たいへんだ、こんどはオレの番かい?」
    そこへ、噂の張本人の“あいつ”が、ニヤニヤしながら姿をあらわしました。
    いつもながらオットリと、少しぐらいの悪口なんか、いっこうにコタエそうもない“あいつ”――浜田光夫クンです。
    「やア、なんの話だい?楽しそうだネ」
    高橋クンと賢クン、思わず顔を見合わせてニヤリ。
    なんのことだか、さっぱりワケはわからぬまま、浜田クンもニッコリ。
    「君たち、江戸小噺っての知ってるかい?」
    と、突拍子もない質問を浴びせます。
    「江戸小噺って……ア、あれだろう、ほら……」
    「ストップ!これから、オレがその小噺を一度披露してやるからおもしろかったら、遠慮なく拍手してくれよ…」
    というわけで、浜田クンが二人を前に、得意満面で語りはじめます。
    「なア長松や、なんだってネ、お向いの家にカコイ(囲い)ができたんだってな」
    「ヘーイ(塀)」
    ところが、カンジンの高橋クンも賢クンも、
    (なんだい、たったそれっぽっちか……)といった表情で、クスリともしません。
    「どうしたい?カンの鈍い連中だナ」浜田クン、躍起になってシャレの説明にとりかかりますが、
    「それぐらい知ってるよ」
    「そうさ、問題は喋り方だよナ、浜田クンのは、全然、落語にもなんにもなっていないもの」
    二人にやりこめられて、すっかり自信を失くした彼、
    「そうかなア、これでもずいぶん練習したんだぜ」
    「だけど、光夫も、若いくせに、妙な道楽をはじめたもんだネ、小噺だとか、古川柳だとか…」
    「道楽?冗談じゃない、研究といってもらいたいな。こうみえたって…」
    「ボクは日本大芸術学部演劇学科の浜田光夫です、どうぞよろしく」と、賢クンが混ぜっかえすと、
    「よせやい、オレだって同級生なんだぜ。もっとも、仕事が忙しくて、入学式にも顔を出せなかった一年生だけど…」高橋クンがわざとふくれっ面を作ってみせます。

    ☆ 小百合ちゃんのドギモを抜く ☆

    母一人子一人の団地ッ子で、見かけによらず(失礼?)清潔屋で、毎日、お風呂だけは欠かしたことがないという、浜田クン。
    「一日も欠かしたことがないといえば、ウソになるナ」白い歯を見せて、照れくさそうに笑いながら、「例外はありますよ、石原さんにはじめてお会いした日…いっしょに記念撮影したんです。裕ちゃんが僕の肩に手をかけてくれたんだ。ボク、ずっと前から、裕ちゃんの熱烈なファンだったでしョ、だから…」
    洗い流すのがモッタイなくて、その晩だけは、とうとう入浴しなかったという純情ぶりは、いまでも少しも変わっていません。
    そして、この“純情少年”を、クヨクヨしたセンチメンタリズムや、深刻癖から救ってくれるのが、天成のユーモア精神?ということになりましょうか。
    そういえば、つい最近、こんな話もありました。『青い山脈』のロケで、吉永小百合さんたちと、琵琶湖の旅館に泊まっていたときのこと。
    かけもち出演する『非行少女』の撮影で、いよいよ明日は石川県金沢に出発する前日です。
    小百合ちゃんの前に、ふだんとは違った、真面目くさった顔つきであらわれた浜田クン。
    「吉永さん、じつはこんど、会社の事情で、和泉(雅子)さんとコンビを組むことになりました。ついては、これまでいろいろおつきあいいただいた吉永さんにも、一言ご挨拶申し上げます」と、うやうやしく口上を述べだしたのです。
    浜田クンと小百合ちゃんは“純愛コンビ”として、ピッタリ呼吸のあった仲。それだけに、小百合ちゃんのことを、いまさら他人行儀に「吉永さん」と呼ぶなんて…。これには、さすがの小百合ちゃんも、ちょっと、ドギモを抜かれた感じで、なんと応対したらいいものやら、困ってしまったそうです。どこまでが本気なのか、どこまでが冗談なのか――ふだんの彼のお茶目ぶりを知っているだけに、
    「すっかりマゴついちゃった。ふだんの浜田クンらしくもない、神妙そのものといった顔なんですもの…」と、小百合ちゃんは、あとになって大笑い。
    せっせと打ち込んだ“落語研究”が、思わぬところで効果を発揮?した一例かもわかりません。
    『青い山脈』では、カラッと明るく、どこかヌーボーとしたところのある受験浪人を、『非行少女』では、重苦しい封建的な環境にうちひしがれながら、和泉マコちゃんとの純愛を一途に貫こうとする青年を…。
    二つの正反対な役どころに取り組んだ、浜田クン。
    「どっちの役がボクに向いてるかって?案外、非行少女の悲劇的な若者の方かもしれないナ。でもネ、小百合ちゃんも口が悪いですよ。やせっぽっちのボクが、重厚な演技をするためには、もっと、うんと食べなくちゃいけないだろうッて…オレの大食なこと、よく知ってて、イヤガラセいうんだもの」
    純情な“あいつ”は、長い舌をペロリと…おどけてみせるのでした。

inserted by FC2 system